浮世絵学04/外題(奈良絵巻・奈良絵本)DB 2025奈良(絵巻・絵本)竹とり たけとり(竹取の翁)かぐや姫 2025-01-29現在 酒井雁高(浮世絵・酒井好古堂主人) https://www.ukiyo-e.co.jp/3864
所蔵:日本・個人
極メ:筆者(ふでハ) 明之言 *「言」の一字名は、大納「言」で、阿野実藤(1634-1693 )と特定
但、「明之」の意味は解らない
絵ハ:土佐光隆 手元の史料では、年代が解らない
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◎奈良絵巻、奈良絵本(御伽草子)の術語の定義 *平安期の絵巻、その他、絵入版本も含む
*奈良絵巻・奈良絵本は、画者*(「画ハ」の意、画の模写)、筆者*(「筆ハ」の意。これは画でなく詞書の書写)、奥書もなく、制作年、版元(元締め)が書かれていない。
*肉筆また版本(古活字、整版)などを勘案して、年代を推測している。
*筆者、「ふでハ」と読み、親王級の人物が詞書を書いた。斐紙(雁皮紙)で、下敷きの罫線が透けて見えるので、副本に沿って、墨継ぎをして連綿でサラサラと書いた。
*「筆者」に対する、「画者」(ゑハ」という術語が無いので、敢えて画者として使った。絵、絵師は、かなり下位、恐らく六位以下の人物が担当していた。筆も画も、副本があって、それを転写、模写したのである。
*画者、「えハ」の意であるが、術語として定着していない。絵者、画者の術語は、私の造語であり、混乱を避けるための便法である。[筆者、筆写、書写、清書、筆耕]などに対する絵師の意。
*本書は、この時点における絵本・絵巻の伝本を調査した
*酒井好古堂ホームページも紹介してあった。
*販売を目的とせず、かつ個人的、学術研究の場合、複写を許可します。
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◎この「竹とり」(奈良絵巻)、見返し(巻絹)、料紙が金泥(銀泥)天皇家(筆者、大納言・阿野実藤)の特別註文品である事が解る。むろん内親王の祝儀品で、国宝級の作品である。
*図録、ネットなど管見の範囲であるが、最高水準の美術作品で、内親王のための結婚祝儀品。
*筆ハ(詞書)、天皇、親王、三筆(四筆か)による第一級の詞書き(明之言様筆、極メ)
*絵ハ、土佐派(土佐光隆)による
*今後、精査が望まれる。
酒井雁高が、全三巻、上中下を読み読み下した。
かなり誤認、誤読もあると思われる、諸賢の御教示を願っています。
筆ハ、書流を伝授された、適確な書体、料紙も特注
*****竹とり 翻刻1-3OK .egwud テキスト全文
絵巻の底本 *底本を見ながら、臨書した。従って、自筆竹取り物語、そして転写された古写本、それらの底本があった
*この奈良絵巻の底本の典拠、語句の底本は、下記の諸本の何れか不明。
1592 天正本 天理図書館 武藤本 *文字遣い、語句が、一致せず、かなり違っている。
1596+1615(慶長)古活字本 十行本 *かなり語句が一致する。この古活字本の底本が不明
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諸本
#古本系統
・後光厳院本(断簡)
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#流布本系統
第一類
・1592 武藤本 天理図書館本 *語句が一致しない
・武田祐吉旧蔵本
・久曾神甲本
第二類
・二類本(CBL本・島原本合成版)
・チェスター・ビーティ・ライブラリー(CBL)絵巻本
第三類
・吉田本
・蓬左文庫本(中山春明氏御提供データ・DK修正版)
・高松宮家禁裏伝来本
・戸川本
・里村紹巴筆本
・1596-1615古活字十行甲本 *かなりの語句、一致する
・正保三年刊整版本
・中御門家旧蔵本(架蔵)
その他架蔵資料等翻刻
・定家様筆『伊勢物語』断簡
・『住吉物語』断簡
・尊円真翰転写本『俊成三十六人歌合』*
*西暦で編年順にすることが肝要。○○本は、あまり意味がない。
[竹とり 絵巻 三巻] 筆者(ふでハ):明之言 阿野実藤か 画者(ゑハ):土佐光隆
*全文の書き下し
*****竹とり 翻刻1-3OK .egwud 2025-02-14
*****たけとり 上中下 長さ 一覧表
*****竹とり 明細1 2 3_OK.egwud 2025-02-14
*語句の検索は、下記 2 3 清音で検索する
*しかし、古写本、古活字本の底本は不明
1 1592(天正20)天正奥書書本 *天理図書館
*この古写本の底本は不明 語句は一致しない
2 1596-1615(慶長)古活字本 十行本
*この古活字本の底本、1を含む古写本 かなりの語句、一致する
3 1610s(慶長)塙保己一(編纂)/竹取物語/群書類従本
*典拠は不明だが、かなり古いもので、多少、語句が一致する。
*諸本を編纂して製版しているので、底本は幾つもあるようだ
4 1646(正保3)京都・林甚左衛門
5 1650s(前期)明之言*(筆)土佐光隆(画)/奈良絵巻 *阿野実藤(1634-1693) *阿野家(羽根¥)
初名:季信1638 従五位下1641 侍従1642 従五位上1646 正五位下1649 左近衛少将1650 従四位下1654 従四位上1654-1662 左近衛権中将1658 正四位下1662 従三位1666 正三位1666 参議1667 左近衛中将1669 踏歌外弁1672-1680 権中納言1673 従二位1675 神宮伝奏1691 正二位1692 権大納言
*精査すれば、宮中の土佐派、大納言筆であるから、底本は、新出の可能性も出てくるか。
6 1663(寛文3)重版
7 1802(享和2)田中大秀旧蔵本 *おおひで
8 1910竹取物語、国民文庫 今は昔…
*ネットの本文、典拠不明で、底本を特定できないが、便宜的に以上の様に制作年代順とした。
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本絵巻で、使用されている特徴的な変態仮名、語句
*遣:け げ 一般的な変態仮名では、あまり使われていないようだ
*五國:五穀 転写の時、誤認、誤記と判断でき、気付くはずであるが…
*國王:こくわう 二ヶ所に出てくる *他では使われていないようだ
*さるき:さぬき 転写の時、誤りに気付くはずであるが… 地方に赴任しない人物は間違えて誤記したか
*堂:た 多の頻度が多いが、本絵巻では「堂」が使われている
*ハ:は 主客に使われる
*盤:〜は これも主客に使われるが、違いはハッキリしない
*満 万:ま これらは一般的な変態仮名
*御子(みこ)、「見かど」(みかど、御門、帝)、「國王(こくわう)その他の文字で書かれていて、確定できない。
*帝(みかど) 天武天皇(683-703) 実在の天皇であるが、短命であった
*見かど:帝、御門として書かれている 他の諸本には全く無い。
*屋:や これは一般的な変態仮名
*類:る これは一般的な変態仮名
*全てを精査しないと、絵巻の詞書の底本(典拠)は解らない。
*幾つかの重要な語句が判明すれば、それらで、ある程度の底本、つまり年代が判明する
*管見の範囲であるが、この絵巻の語句は、かなり古活字本と一致する
1596-1615(慶長)古活字本 十行本 *この底本は不明
素材
[五つの物語] *もっとも当初は三人(3 4 5)であったともいう
1 石造皇子 いしづくりのみこ 仏の使った石の鉢 *この人物は創作
2 車持皇子 くらもちのみこ 蓬莱の玉の枝 *この人物は創作
3 右大臣・阿倍御主人(635-703) みむらじ 火に焼けない火鼠の皮衣(かわぎぬ)
*3 4 5 これらの人物は実在
4 大納言・大伴御行(645-701) おおともの みゆき 龍の首に光五色の玉 雷鳴に驚く
5 中納言・石上麻呂(640-717)いそのかみ まろたり 燕の持っている子安貝 墜落、不帰の客となる
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成立 810-910 *1984三谷栄一(解説)/日本古典文学大辞典、岩波書店
上限
・810s 自筆竹取物語
・810(弘仁元)、頭中将の御、蔵人所が設置された
・866(貞観8)、伴善男(とものよしお)の大伴家が没落した以後
下限 *これ以前か。やや解り難い *成立は900s延喜前後と云われている
・910(延喜10)源嘉種が皇女桂宮・孚子内親王と忍んで逢った八月十五日夜(大和物語)
・990s 紫式部(973-1014)が読んだとされる
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作者
讃岐造麿(さぬきの つくりまろ) 讃岐のみやつこ かぐや姫の養い親
斎部(いんべ)の秋田 祭祀を司る 讃岐の斎部 かぐや姫の名付け親
僧正遍昭(816- 890)
紀長谷雄(845-912) 平安時代前期の漢学者
明之言(筆)、土佐光隆(画)/竹とり 0 箱、全三巻、極メ入、
竹とり0.1 木箱 「たけとり 三巻」
竹とり0.2 上 中 下
竹とり0.3 極メ入(袋)
竹とり0.4(極メの裏) 戊霜 [神田道信]
竹とり0.5 竹登里尽 土佐光隆筆(印)
明之言様御筆* 竹登里 三巻(印)
*一字名:言(ごん) 大納言・阿野実藤か
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[極メ]
1 土佐光隆筆(画)
*松の樹木など、柔らかに描かれ、土佐派か
*極精緻な描法
2 明之言様(ゴン)(大納言・阿野実藤か)
*絵所預かりが関与した天皇家の特別註文か 筆ハ大納言で、巻絹が豪華な金泥、料紙も金泥、銀泥
*詞書、画像、ざっと法量を計り、撮影した。
*絵は17点、倍尺をx2とすると22点
*長さ、上、中、下、それぞれ1400-1500 cm
通常の奈良絵巻は、900-1000 cm
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1997堀内秀晃(1931- )/竹取物語/新日本古典文学大系17、岩波書店 *ほりうち ひであき
*底本は、天理図書館蔵本(翻刻番号799)
*脚注は、簡潔に書かれていて、本文の異同、校異が示されている
*もっとも、不審な語句の脚注は殆どが明示されていないで、不要な注が書かれている
*脚注欄の段落に対応する小見出しを付してある。これを酒井雁高が、書き加えた。誤認もあるかも知れない
竹とり 1:上
1.0a 竹とり 上
1.0b 巻絹(金泥)
[1 かぐや姫の生い立ち]
1.01
い万ハむかし たけとりの 於きなと
いふもの 有けり 野山にまし里て
堂けをとりつゝ よろつ乃事に
つかいひけり 名をは *佐るきのミやつ
ことなん いひける 其竹の中に もと
ひかる竹なん 一すちあ里けり あや
しかりて よりて みるに 津ゝの中ひ
か里たり それを見れは 三すん ハかり
なる一 いとうつくしうて ゐたり 於
きな いふやう われ 朝こと 夕ことに
見る たけの中に於はするにて 志
里ぬ 子になり給ふへき一なめりと
て 手にうち入て 家へもちて きむ めの
女に あつけて 屋しなはす うつくし
き事 かきりなし いと 於さなけれ
は *はこに入て 屋しなふ 竹とりの お
(雁註)*「はこ」に入て云々。絵を見ると、竹籠で箱ではない。群書類従本、イ 籠
民族学でも南方では、竹矢来でお産をした。竹矢来で生まれたが、後に竹から生まれたと誤解された
1.02 (お)きな 竹とるに…
(お)きな 竹とりに 此子を見つけて
乃ちに たけ取に ふしを邊たてゝ よ
ことに 古かねある竹を ミつ具る事
かさなりぬ かくて 於きな 屋うやう
ゆたかに成ゆく このちこ やしなふ
ほとに すくすくと 於ほきになりま
さる 三月はかりになる ほとに よきほ
とになる人に なりぬれは かミあけな
登左右(さう)して かミ阿けさせ きちやう
のうちより 出さず いつき かしつ
き屋しなふ ほとに 此ちこの かたちの
けそう成事 世になく 屋の内は
くらきところなく ひかりみちたり
於きな こゝちあしく 具るしき時も
此子をミれは くるしき事も やミぬ
はら堂ゝしき事もなく なくさ
いけり 於きな たけをとる事ひさし
具なり さかへにけり 此子いと於ほき
に成ぬれは 名をミむろといん邊のあきた
をよひて つけさす
1.03 あきた なよ竹乃…
あきた
なよ竹乃
かくや
ひめと
つ遣侍る
1.04
*かぐや姫は、竹の丸い籠に入っている。翁、嫗の他、子供たちも集まっている。
松の常磐木の描き方(樹法)はサラリと描かれて、土佐派と見られる。
狩野派は、筆遣い、画法が古代シナ画法で、かなり堅い
[
2 貴公子たちの求婚] このほと三日… 人の物ともせぬ…
1.05
このほと 三日うち阿けあそふ よろつ
のあそひをそ しける 於とこは たけ
きらハす よひつとへて いとかしこ
具あそふ 世界のをのこ あてなるも
い屋しきも いかて このかくやひ免
をえてしかな見てしかなと をとに
に きゝめてゝまとふ そのあたりの
かきに家のとにも をる人たに
たはやすくみるましきものを よる
は 屋すき いもねす やミの夜にも こゝ
かしこより のそき かひま見まと
ひあへり さるとき よりなん よは
ひとハ いひける 人の物ともせぬ所に
まとひありけとも なにの志るしあ
るへ具も見えす 家の人共に物を
堂に いはんとて いひかゝれとも こ
とゝもせす あたりを はなれぬ 君達
夜をあかし 日をくらす 人於ほかり
ける をろかなるひとハ ようなき あ
里きハ よしなかりけ里とて こ(來)ず
1.06
な里にけり 其中に なを いひ
け類ハ いろこのミと いはるゝ人 五人
おもひ屋むときなく よるひる きた
利けり 其名一人ハ いしつくり里の
御子 一人ハ くらもちの御子 一人ハ左
大臣あへ乃ミむらし 大納言 一人は
大伴のミゆき 中納言 一人ハいそのかミ
乃もろたか この人々なりけ里 世中
に 於ほかる人をたに すこしも かたち
よしと きゝてハ 見まほしうする人
たちなりけれは かくやひ免を見ま
ほしうて 物もくはす 於もひつゝ かの
家に行て たゝすみありき けれ
は かひあるへ具も あらす 文をかき
て 屋れとも 返事(かへりごと)もせず わひうた
なと かきて つかハすれ共 かひなし
と於もへとも 霜月極月のふりこ
ほり ミな月のてりハたゝ具にも
さハらす きたり こ乃人々あると起
は竹とりをよひ出して むす免
を我に堂へ(賜へ)と ふし於かミ 手をすり
1.07 (むすめ)を我に 堂(賜)へと ふし於かミ 手をすり…
[(むすめ)を我に堂へ(賜へ)と ふし於かミ 手をすり]
の堂まへと をのか な(生)さぬ子なれハ
心にも 志たかえすとなんいひて
月日を於く類 かはれは この人々 家
に かへりて 物を於もひ いのりをし
くハんを立 おもひ屋むへくもあら
す さりとも 津井に 男あらせ
さらむやハと おもひて 堂のミをか
遣たり あなかちに 心さしを 見
えありく これをミつけて 於き
な かくやひめに いふ 屋う御身ハ ほ
とけ 邊んけの人と申なから こ
れほど 於ほきさ万て 屋しなひ
奉る 心さし をろかならす 於きな
の申さん事 聞ま給ひてんやと いへハ
かくやひめ 何事をか の堂万(たま)ハん
ことは 承(うけたまは)さらむ 邊ん遣(へんげ)の物にて
侍けん 身とも志らす 於やとこそ
於もひ奉れと いふ 於きな うれし
く もの給(たま)ふものかなといふ 於きな 年
七十にあまりぬ けふともあすと
も志らす この世の人は男、女に あ(婚)
1.08 七十にあまりぬ…
[七十にあまりぬ けふともあすと
も志らす この世の人は男、女に あ(婚)]
婦事をす 女ハ男にあふこと越す
其後なん 門ひろくもなり侍る い
かてかさる事なくてハ 於はせん かく
屋ひめの いはく なんてう さる事か
し侍らんといへは 邊ん遣(へんけ、へんげ)の人と云
とも 女の身もち給へり 於きな のあ
らんかきりハ かうても いまむかし
この人々の年月を邊て かうのミ
いましつゝ のたまふ事をおもひさ
堂めて ひとりひとりに (一人一人に)あひ(婚)たてまつり給(たま)へ屋と
いへは か具やひめ いはく 能(よく)もあらぬ
かたちを ふかき心も志らて あた
心つきなは のち 具やしき事も
あるへきをと 於もふはかりな里 世
乃かしこき人なりとも ふかき心さ
しを志らてハ あひかたしとなん 於
もふといふ於きな いはく おもひのこと
具もの給ふかな そもそも いかやうなる
1.09 こころざし…
こゝろさしあらん 人にか あらん 人にか あ(姻)ハんと於
ほす かはかり こゝろさし をろか
ならぬ人々にこそ あめれ かくやひ
め乃 いはく 加(か)はかり乃 ふかきをか ミ
むといはん いさゝかの 事なり 人の
心さし ひとしかんなり いかてか
にをとりまさりハ 志らむ 五人の中
に ゆかしき ものを見せ給(たま)へらんに
御心さしまさりた里とて
つかうまつらんと
その於は
すらん人ゝに
申堂(た)まへ
と
いふ
(雁註)1.10a+1.10b 写真を二枚、結合する方法、忘れてしまった、何とか、画像を見易くしたい。暫時、お待ち下さい
1.10a (右)
1.10b(左)
1.11 よき事なり…
よき事なりと う遣つ 日くるゝほ
と れいのあつまりぬ 人々あるひ盤
ふえをふき あるひハ 哥をうたひ あ
るひハ 志やうかをし あるひハ うそを
ふき あふきをならしなとするに
於きな 出て いはく かたしけなく
きたなけ成 ところに 年月を邊
て ものし給ふ事あ里 かたくかし
こまると申 於きな乃命 けふあすと
も志らぬを かくの給ふ 君達にも よく
おもひ さためて つかりまつれと申
も ことはりな里 いつれも をとり
まさり 於ハしまさねハ 御心さしの
ほとハ ミゆ邊し つかうまつらん事
盤 それになん さたむ邊きといへは これ
能事也 人のうらミも あるまじと
いふ 五人のひとびとも 能事なりと
いへは 於きないりて いふ かくやひめ 石
つく里乃御子にハ 仏の御石のはち
といふ物ありけれを 取て給へといふ
くらもちの御子にハ東の海にほう
[3 佛の御石の鉢]
1.12
(くらもちの御子ハ東の海にほう)
(ほう)らい(蓬莱)といふ山あるなり それに志路
か祢を根とし こかねをくきとし
志ろき玉をみ(実)として 堂(た)てる木
あり その一えた折りて たまハらん
といふ 今ひとりにハ もろこしに有 火
ねすミ乃かはきぬを 給へ 大伴の大
納言にハ 堂(た)つのくひに五色にひかる
堂満(たま)あり それを取てたまへ いその
かミ乃中納言にハ つはくらめの もたる
こやすの貝 とりて給へといふ 於きな
かたき事にして あなれ 此國に
有ものにもあらす 加く かたき事を
はいかに申さんといふ かくやひめ なに
か かたからんといへは 於きなとも あれ
かくもあれ 申さんとて 出て かくなん
聞ゆるやうに見給へといへは 御子た
ち上達部きゝて をいらかに あたり
より堂(だ)に なありきそとやハ のた
まはぬと云て うんして ミなかへりぬ
なを 此女 見てハ世にあるましき
こゝちのしけれは てんちくに有物
[3 佛の御石の鉢]
1.13 なを 此女見て…
もてこぬ物かはと 於もひ めくらして
いしつくり乃御子ハ こゝろの志たく
有人にて 天ちくに二つとなき は
ちを百千万里のほと いきたりとも
いかてか とるへきと おもひて 加く屋ひ
め乃もとにハ けふなん 天ちくへ石の
はちとりに満かると きかせて 三年
ハかり 大和乃國と 越ちのこほりに
ある山寺に ひんするのまへ成(なる)ハち
の ひたくろに寸見(すみ)つき堂(た)るを と
里て にしきのふくろに入て つく(造)
利花のえたに つけて 加く屋ひ免
の家に もてきて 見せけれは かくや
ひめ あやしかりて ミれは はちの中
に文あり ひろけて見れは うみ山
のみちに 心をつくし はてないし
のはちの涙なかれき かくやひめ ひかり
や有とみるに ほたるハかりのひかり
堂(だ)になし
1.14 堂(だ)になし をく霜の…
[堂(だ)になし]
をく霜の ひかりをたにぞ やとさまし
越くらの山にて 何もとめけん
とて 返し出す はちを門に拾てゝ
この哥の返しをす
志ら山に あへは ひかりの う(失)するかと
はちをすてゝも たのまるゝかな
と よ見(み)て 入(いれ)たり かくやひ免 返しも
せずなりぬ 見ゝ(みみ)にも きゝ入さり遣(け)
れば いひかゝづらひて 婦りぬ 彼のは
ちをすてて 又いひ
けるよりそ
於も(面)なき事を
はぢを
すつるとは
いひ
ける
1.15 絵 *鉢を持参する
[4 蓬莱の玉の枝] くらもちの御子ハ心たはかり…
1.16 くらもちの御子…
くらもちの御子ハ 心たはかり有人
にて 於ほ屋遣(おほやけ)にハ つくしの國に
ゆあミに まからんとて いと満申て
かくやひめの家にハ 堂満のえたとり
になんまかると いはせて くたり堂
まふに つかうまつる邊き人々ミな
難波まて 御をくりしける 御子いと
志のひてと の給はせて 人も あまた
ゐ(率)て 於ハしまさず ちかう つかう(仕)ま
つる かきりして 出(いで)給ひ(ぬ) 御をく里の
人々見奉り をくりて 帰りぬ 於はし
ましぬと 人にハ見て給ひて 三日は
かり有て こき(漕)給ぬ かねて ことミな
仰(おほせ)たりけれは 其時一ツの 堂からなり
ける かち(鍛冶)たくミ 六人をめし取て たは
屋すく 人よりくまじき 家をつ具
里て かまと越 三邊(みえ)に 志こめて た
く(ミ)らを 入堂(いれたま)まひつゝ 御子も同所に こ
もり給(たま)ひて 志らせ給(たま)ひたるかきり 十
六そを *か見(み)耳(に)くと越 あ遣(け)て 玉のえ
*十六そを 「そを」この意味不明
*かみにくと この語句、難解
1.17 なおをつくり給 …
(え)堂(だ)をつくり給 かくやひめ の給ふ様に
たかハず つく里出(いで)つ いと かしこく
多はかりて なにはに みそかに
もて出ぬ 舟にのりて帰りきに
けりと殿に つ遣屋りて いと いた
具 くるしかり堂る様(さま)して ゐたま
邊り むかへに 人於ほく参たり 玉の
えたをは 長ひつに入て 物於ほひて
もちて参る いつか聞けん くらもちの
御子ハ うとんくゑ(優曇華)の花もちて のほ
里給へりと のゝ志りけり これを かく
屋ひめ きゝて 我ハ この御子に
ま遣(け)ぬ邊(べ)しと
むねつふれて
於もひ
けり
1.18 絵 *くらもちのみこ、竹取翁を訪ねる
1.19 かゝるほとに 門(かど)を堂(た)ゝき…
かゝ類(る)ほとに 門(かど)を堂ゝきて くらもち
の御子 於ハしたりと つく(告) 旅の御
すかたなから 於ハしたりといへは あ
ひ奉る御子 の給ハく 命を捨て
彼玉のえた もちて 来るとて かく
やひめに ミせ奉り 給へと いへは 於
きな もちて い里堂り 此堂まの
えたに ふ見そ つ遣(け)たりける
いたつらに 身ハなしつとも 玉のえを
堂をして たゝ(だ)に か邊(へ)らさ(ざ)らまし
是をも あはれとも見て をるに 竹
とりの於きな はし里入て いはく
此御子に申給ひし ほうらい(蓬莱)乃
玉のえたを一つの所をあやまたず
もて於ハしませり 何をもちて
とかく申へき 堂ひの御すかたなから
ヮか御家へも より給ハずして 於はし
まし堂り はや 此御子にあひつ
かう(仕)まつり給へといふに 物もいはず
つらつえ(つらつゑ、頬杖)をつきて いミし具 な遣(げ)
かしけに おもひ堂り 此御子 いまさへ
何かと いふへからずといふまゝに えん(縁)
1.20 かしけに おもひ堂(た)り…
[(な遣)かしけに おもひ堂り 此御子 いまさへ
何かと いふへからずといふまゝに えん(縁)]
に はひのほり給ぬ 於きな 理(ことわり)に
於もふ 此國に見えぬ堂満の枝なり
こ乃堂ひハ いかてか い給ひ申さん 人
様も よき人に 於はすなと いひゐ
たり かく屋ひめの云やう 於やの の
まふ事をひたふるに いなひ申さん
ことのいと 於しさに とりかたき物を
かく あさまし具もて 来る事を祢
たく 於もひ 於きなは 祢屋のうち
志つらひならず 於きな 御子に申
やう いか成所にか 此㈭ハ 侍(さぶら)ひけん あ
屋し具 うるハしく めてたき物に
もと申 御子 こたへて のた万ハく さ
於とゝしの 二月の十日ころに 難波
より 舟に乃りて 海中(うみのなか)に 出て ゆ
かんかたも志らず 於ほ(おぼ)えしかと 於
もふ事ならて 世中(よのなか)に いき 何かて
せんと おもひしかは 堂ゝ むなしき
1.21 風にまかせて…
風にまかせて ありく 命 志なは い
かゝハせん 生きてあらんかぎり かくあ
理きて ほうらいといふらん 山に
あふやと 海に こき堂ゝよひ あり
きて 我國のうちを はなれて 阿り
き まかりしに あるときハ なみあ
れつゝ うミのそこにも 入ぬ邊く 有
時にハ 風につ遣て 志らぬ國に 吹(ふき)よ
せられて 鬼のやうなる物 出来て こ
ろさんとしき あるときにハ こしかた
ゆくす惠も 志らて うミに まきれ
むとし 有時にハ かてつきて 草
乃祢をくひものとし あるとき い
らんかたなく むくつけなるものゝ
きて くひかゝらんとしき 阿るとき
盤 うミのかい(貝)を とりて 命をつぐ
堂ひ(たび)のそらに 堂(た)すけ給ふ 邊き人
もなき所に いろいろの病をして
行方 空も覚えず 舟のゆくに ま
かせて うミに堂(た)ゝよひて
1.22 絵
1.23 五百日と云 堂(た)つのこく…
五百日と云 堂(た)つのこく はかりにうミ
の中に わつかに 山ミゆ 舟のうちを
なん せめて見るのミのうえに 堂ゝよ
邊る山 いと於ほきにてあ里 その
山乃さ万 高くうるハし これや わか
もとむる山ならむと おもひて さすか
に 於そろし具 覚えて 山のめくり
をさしめ めぐらして 二、三日はかり ミ
あ里ぐに 天人のよそほひ 志たる
女 山の中より出きて 志ろかねの
かなまるをもちて 水をくみありく
これを見て 舟より於りて この
山の名を何とか申ととふ 女こたへ
て云 これハ ほうらいの山なりと こ
たふ これは聞にうれしき事 浪
なし 此女かくのたまふハ 堂(た)れそと
とふ 我か心ハ はうかんるりと云てふと
山の中に入ぬ その山をミるに さら
に上るへき屋うなし 其山のそハひ
らをめくれは 世中になき 華[はな]の木
1.24
(華[はな]の木)ともたてり 金 志ろかね るり色の
水 山より なかれ堂る それにハ いろ
いろの玉のはし わたせり 其のあたり
に てりかゝやく木共 立り 其中に
此取てもちて まうて きたりし
盤 いとわろかりしか共 の堂(た)まひしに
堂かハましかばと この花を折て
まうて来る也 山ハかぎりなく 於も
志ろし 世に堂とふへきに あらさりし
かと このえたを於りてしかは 更
に心もとなくて 舩にのりて おひ風
吹く里 百余日になん まうてきにし
大願力にや 難波より きのふ 南都に
まうて きつる 更に志ほに ぬれたる
衣たに ぬぎかへ なて なん □(こち)まう
て きつると の堂まへハ おきな聞て
うちなけきて よめる
くれ竹の 世ゝの たけとり 野山にも
さやハ わひしき ふしをのみ見し
これを御子 聞て こゝらの日ころ 思ゐ
1.25
わひ 侍つる心盤 けふなん於ちゐぬる
と のたまひて返し
わかたもと けふかはけれハ わひしさの
千草のかずも わすられぬべし
と乃堂まひ かゝるほとに 男共 六人 つ
らねて 庭に出来 一人の男ふはさ
見 文をは さみて 申ても むつかさ
の 堂くミ あや邊のうちまろ 申さく
玉の木をつ具り つかふまつりし
事 *五國(五こく、五穀)をたちて 千余日に力を
つぐしたる事 すくなからず 龍に
ろく いまだ給はらず これを給て わろ
きけこに給せんと云て さゝけたる
竹とりの於きな 此堂ゝ ミゝか中
事そとかたふき於り 御子ハ われ
にもあらぬ けきりて きもきえ
給た まつりこれを かく屋ひめきゝて
此奉る文をとれと云て けれハ 文に申
けるべう 御子の君 千日 いやしき堂
くミらと もろとも同所に かくれ給ゐ
(雁註)*「五國」は、五穀の間違え。しかし、「五」の字、やや読み難い。この語句があれば、底本を特定できる。転写の際、気が付くはずであるが…不審
1.26 (隠れ)ゐたまひて かしこき
堂(た)まひて かしこき玉の えた つ
くら勢 給ひて つかさ(官)も 堂万ハら
むと仰せ給ひき これを 此ころ あん
するに 御つかひと 於はしますへき
かく屋ひめの えう(要)じ給ふへきなり
けりと 承(うけたまはり)て 此宮より 給ハらんと
申て 給(たまはる)へきなりといふを きゝて か
ぐやひめ くるゝ(暮るゝ)まゝに おもひ はひつ
る心ち わらひさかへて 於きなを よ
ひとりて云屋(や)う 満こと ほうらいの
木かとこそ 於もひつれ かくあさま
しき そらことに手 あ里けれは
はや返し給へと い邊ハ 於きな こたふ
さたかに つくらせたる物と 聞(きき)つれは
かへさんこと いと やすしと うなづき
をり 加くやひ免の 心ゆきはてゝ
あ里つる うたの返し
万こと加登 聞て 見つれば ことのはを
かざれる 堂まの えたにぞありける
といひて 玉のえたも 返しつ
1.27a (右)
1.27b(左)
1.28 竹とりの於きな さはかり…
竹とりの 於きな さばかりかたらひ
つるが さすかに 於ほえて 祢ふりを
里 御子ハ堂(た)つも はした ゐるも はし
堂(た)にて ゐたまへり 日の暮(くれ)ぬれハ
すべり出(いで)給(たま)ひぬ かの うれへせし たく
見をは かくやひめ よひすへて うれ
志き人ともなりといひて ろく いと
於ほく とらせ給ふ 堂くミ(匠)ら いミじ具
よろこひて おもひつる様にもあるか
なと云て かへる ミちにて くらもちの
御子 ちのなかるゝまて 調(てう)ぜさせ堂(た)
まふ 路く(禄) えしかひもなく 皆とり
すてさせ給ひて けれは に遣(げ)うせに
けり かくて 此御子 一志やうのはぢ
これにすくるハ あらし 女を得ずなり
ぬのミにあらず 天下の人の於も
はん事の はづかしき事と の給(たま)ひて
堂(た)ゝ 一所(ひとところ)ふかき山へ いり給はぬ
宮つかさ さふら婦 人ゝ 皆 手をわかちて
もとめ堂(た)てまつれ共 御死にもや 志
1.29 堂(た)まひけん 得(え)ミつ遣(け)奉らずなりぬ 御子乃御供に…
堂(た)まひけん 得(え)ミつ遣(け)奉らずなり
ぬ 御子乃 御供に かぐし給ハん と
く年頃 見え給ハざり遣るなり
これをなん 堂万(たま)
さかるとは云
はし免
ける
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竹とり 2 中
2.0a
2.0b
[5 火鼠の皮衣]
2.01
左大臣あべのミむらじハ 堂から(財)ゆた
かに 家ひろき人にて於ハし遣類
其年きたりける もろこしふねの
わうけいと云人のもとに文を書く
火ねずミのかはといふなる物かひて
於こせよて つかうまつる人の中
に心堂しかなるをえらひて 小野
乃ふさもりと云人をつ遣て つかは
す もていたり傳 からにをる わう遣
ゐに 金をとらす わうけい ふミをひろ
遣て見て 返事かく 火祢すみの
かはころも こ乃國になき物也 をと
にはきけ共いまたミぬ物なり 世
にある物ならは 此國にももてまう
てきなまし いとかたきあきなひ
なり然とも もし天ちくに堂まさ
2.02
(堂まさ)かにもてワたりなは (若)長者のあた
里にとぶらひ もとめんに なき物な
らむ 使にそへて金をは返し奉
らんといへり かのもろこしふね き
けり 小野乃ふさもり もうてきて満
う乃ほると云事を聞て あゆみ
とう(疾)する馬をもちて はしらせん
かへさせ給ふ時に 馬にのりて つく
しより たゝ七日にまうて 來る 文
をみるに云 火祢すみのかは衣 か
るして人を出して もちて奉る
今の世にも むかしの世にも此かは
盤 □やすくなきもの成けり むかし
かしこき天ちく乃 ひし里 此國に
もてわたりて侍りける 西の山寺に
ありときゝ及て於ほや遣に申て
からうして かい取て奉る 阿たひの
金すくなしと こくし(國司)使に申しか
は わう氣い(王慶)か物くはへてかひたり 今
こかね(金)五十両給る邊し 舟の帰らん
2.03
に付て 堂ひ(賜)をくれ もしかね(金)たま(賜)
はぬ物ならは 彼衣乃志ち 返した
邊といへる事を見て何於ほす い
ま かね少ににこそあは(な)れ うれしく
して於こせたるかなとて
もろこしのかたに
むかひて ふし
於かミ
給ふ
2.04 絵 (舟)
2.05
此かはきぬ 入(いれ)堂(た)る はこをみれは くさ
ぐさのうる派しき るりをいろ(色)えて
つくれり かはきぬを見れハ こん志や
う乃色るり けのすゑに派 こかね
の光し さゝやきたり 堂からと見
え うるハしき事ならぶれ邊き物な
し かへ かく屋ひめ このもし(好)かり給ふ
にこそあ里 けれと のたまひて あ
なかしことて はこに 入れ給ひて ものゝ
えたに つ遣て 御身乃遣そう い
と いたくして 屋りて とまりなん
ものそと 於ぼして うた よ見(読み)くは
邊(加は)て もちて いまし堂り その哥ハ
かきりなき 於もひに や遣ぬ かはころも
他もと かはきて けふこそ派 き(着)め
と いへり 家の門にもていたりて たて
里 竹とり出(いで)きて とり入て かく屋ひ
免に 見す かく屋ひめ乃 かは衣を
見て云う うるはしき かはなめり わきて
誠乃かはならん共 志らず 竹
2.06
(竹)取 こたへて いはく ともあれ かくもあ
れ 先(まづ)志やうじ(請)入奉らん 世中に 見
えぬ かはきぬ乃 さ万なれハ これを
とおもひ給ひね 人な いたくわびさせ
堂まひ堂てまつらせ給まふそぞ 云て
よひ(呼び)すへたて まつれり かくよびす
邊て こ乃堂ひハ かならず あハんと
女乃心にも おもひをり この於きな
盤(は)かくやひめの 屋もめなるを な遣(げ)
かしけれは よき人に あはせんと 於
もひはかれと せちに いなと いふ事
なれは え志ひぬハ理(ことわり)也 かくやひめ 於
きなに云 此かは衣ハ 火にや(焼)かんに
屋遣(やけ)ずハこそ 万ことならめと おもひ
て 人のいふ事にも まけめ 世に
なき物なれは それをまことと うた
かひなく 於もはん との給ふ 猶 これを
屋きて心ミんと云 於きな それ さも
いはれたり と云て 大臣に かくなん申
といふ 大臣 こたへて云 此かはハ もろこし
2.07
にも なかり遣るを からうじて もと
め堂つねえたる也 なに乃うたかひ あ
らん さは申とも はや 屋きて見給へ
といへは 火の中にうち具へて 屋か
勢給ふに めらめらと 屋遣ぬ されハこそ
こと物乃 かはなりけりといふ 大臣こ
れを見堂まひて かほハ草のは乃
色にて ゐた万へり かくやひめハ あな
うれしと よろこひてゐたり かのよミ
給ひける哥乃 返し はこに入て返す
名残なく もゆと志りせは かハころも
於もひ乃ほかに をきて見まじを
とありける されは かへり いましに遣り
世乃人々あへ乃大臣 火ねずみのかは
衣をもて いまして かく屋ひめに
住給ふとな こゝにや い万すなどとふ
ある人の云 かはハ火に具へて やきた
里しかは めらめらと 屋遣にしかは かく
やひめ あひ給ハずと いひけれハ これを
聞てぞ とげなきものをは あへなしといひける
2.08
(右大臣・阿倍御主人みむらじ)火に焼けない火鼠の皮衣(かわぎぬ) あっという間に燃え尽きた この人物は実在 阿倍御主人(635-703)
2.09 [6 龍の頸の玉]
大伴のミゆきの大納言ハ 我家にあ里
とある人をあつ免て の堂万はく
堂つのくひに御色のひかりある玉あなり それをとりて奉りたらん
人にハ祢かハん事をかなへむと のた
まふ をのこ共 於ほせの子とを承(うけたまはり)て
申さく 何の事盤(は)いとも堂うとし
但こ乃玉堂ハやすくえとらじを い
はん屋 堂つのくひ乃 堂満ハいかゝ と
らんと申あへり 大納言 の堂まふ 天の
つかひと いはんものハ命をすてゝ毛
をのか君の於ほせ事をは かなへん
とこそ 於もへけれ 此國になき てんち
具もろこしの物にもあらず 此国乃
海山より 堂つハをりのほるもの也
いかに於もひてかなん なんちら かたき物と
申へきをのことも申やう さらは いかゝハ
せん かたき物成共 仰事に志たかひ
て もとめに 万からんと申に 大納言 み
2.10
[腹ゐて なむぢらが君の使と 名をなが]
しつ 君の仰せごとをは いかゝほ そむく
べきと乃堂まふ 多つ乃くひの玉
とりにとて 出し多て給(たまふ)此人々の
道のかて(糧)くひものに殿の内の遣ぬ(絹)
わた(綿)せに(銭)なとあるかきりと里出し
てつかハす 此人々とも帰るまて いも(斎)
ゐ(ひ)をして我ハをらん こ乃玉とりえ
てハ家に かへり具(來)なと の給(のたま)はせたり
をのをの仰せ承(うけたまはり)て罷(ま)りぬ龍の首乃
堂万とりえずハかへり具(來)なとのた
まへは いつちもいつちも あしのむきた
らんかたへいな(往)んす かゝ類すき事
を志給ふ事と そ志りあへり給はせ
堂る物 をのをのワ遣つゝ取 あるひハ
をのか家にこもり居 あるひハをのか
ゆかまほしき所へいぬ 親 君と申共
かくつきなき事を於ほせ給ふ事
登 こと(事)ゆかぬ物ゆへ 大納言をそし里
あひ堂り かくやひ免 す邊んにハ れい
屋うにハ見に具しと のたまひて う
2.11[詞書2-8]
(う)類ハしき家をつ具り給ひて うるし
をぬり まきゑして 返し給ひて 屋
乃上にハ いとをそめて いrいろ ふか
勢て うちうち乃 志つらひに盤いふへ
具もあらぬ あやをり物にゑをかき
て万(間)こ(ご)と はり堂り もとのめ(妻)とも
かくやひめを かならず あは(婚)ん まう(設)遣(け)
して ひとりあかしくらし給 つかは(遣)
しゝ人ハよる ひる まち(待)給ふに年
こゆるまて を(お)ともせず
2.11[絵2-3]
2.12[詞書2-09] 心もとなかりて 志のひて…
心もとなかりて いと志のひて 堂ゞ と
祢り(舎人)二人めしつぎ(召継)として屋つれたま
ひて なには乃邊に於ハしまして
とひ(問)給ふ事ハ大伴の大納言の人や舟
にのりて堂つころして そのくひの
堂とれるとや聞くと とは(問)するに
舟人 こたへていはく あやしき事
かなと わらひて さるワざする舩もなし
と こたふるに をぢなき事する舟
人にもあるかな え志らで かくいふ
とおほして わが弓乃力ハ 堂つあら
は ふとい(射)ころして くびの玉ハとり
てん をそく具る屋つ(奴)ばらをまた(待)じと
乃堂まひて 舟に乗て海ことに
ありき給ふに いと遠くて つくし
の方のうミにこぎ出(いで)給(たまひ)ぬ いかゞしけん
はやき風吹 世界くらがりて 舟を
ふきもてあ里て いづれの方共志ら
ず 舟を懐中に まかり入ぬべ具ふき
まハして 浪ハ舩に うちか遣つゝ まき(巻)
2.13[詞書2-10] 入 神ハ於ちかゝるやうに ひらめき…
入(いれ) 神ハおちかゝる屋うに ひらめき かく
類に大納言ハまどひて まだ かゝる わ
びしきめ 見ず いかならんとするぞ と
乃給ふ かちとり こたへて申 こゝら舟
に乗て まかりあ里くに まだ かく
類わびしきめを見ず ミ舟 うミの
そこに いらずハ神於ちかゝりぬべし
もし さいはひに かミの堂す遣あらは
南海にふかれ おはしぬべし うたて
有 主乃みもとに つかうまつ里て
すゞろなる志(死)にを すべかめるかなと
かちとり なく 大納言 これを聞て
乃堂万いて ふねに乗てハ かぢと
里の申事をこそ 高き山と たの
免 など かく堂のもしげなく申ぞ
と あをへど(青反吐)つきて の給ふ かぢ
とりこたへて申 神ならねば何わざ
をか つかう(仕)まつらん 風ふき浪は遣(げ)
しかれ共神(かみ)さへ いたゞき(頂)に 於ちかゝる
屋うなるハ 龍をころさんともとめ給
2.14[詞書2-11] (給)へは あるなり やはても 里うの ふか…
給へは あるなり はやても里うの ふ(吹)か
するなり はや 神きこしめ(せ と言
よき事也とて 楫取の御神 聞こしめせ をと(怖)ぢなく)
音な具 心をさなく 堂つをころさんと
おもひけり いまより乃ちハ 毛一すぢ
を多に うごかし奉らじと よごと(寿詞)
をはなちて 立ゐ なくなくよは(呼)ひ
給ふ事 千度(ちど)はかり申給ふ げにや あ
らん屋うやう神なり やミぬ 少(すこし)ひかり
て 風ハ猶はやく吹楫取の いはく これ
盤 龍の志はざにこそ あ里けれ この
ふく風ハよき方乃かぜなり あしき
方乃風にハあらず よきかたに 於も
むきて ふくなりと いへ共 大納言ハ 是
を聞入給ハず 三、四日ふきて婦き
かへしよせたり はまをミれは
はりまのあかしの
はまなり
遣(け)り
2.15[絵2-3]*雷が現れる
(大納言・大伴御行みゆき) 実在の人物 大伴御行(645-701)龍の首に光る五色の玉 雷鳴に驚く 水の表現、異色
2.17 大納言 南海のはま…
大納言 何回のはまに 吹よせられ
たるにやあるらんと おもひて いき(息)つ
き ふし給へり 舟にある を乃ことも
國につ遣たれ共 国のつかさまうて
とぶら婦にも 得(え)於きあがり給ハで
舩そこ(底)に ふし(臥)給へり 松原に 御むし
ろ(筵)しきて於ろし奉る 其時にぞ
何回にあらざりけ里と おもひて か
らうじて をきあがり給へるを見
れは 風いと於もき(風病)人にて はら(腹)いと
ふくれ こなた かなた乃目にハ すもゝ(李)
を二(ふたつ) つ遣(け)たるやう也 これを見奉り
てぞ 國のつかさも 保うゑミ(苦笑)たる
国に仰(おおせ)給て 堂ごし(手輿)つくらせ給ひ
て にようによう になはれて 家に入給ひ
ぬるを いかでか きゝけん つかはしし
於のこども参りて 申屋(や)う 堂つ
の首の玉を えとらざりしかば南(なん)
殿へも え参ざりし 玉の取りかた
かりし事をしり給へれハなん かん
2.18 …あらしとて 参つると申 大納言
(かん)堂う(勘当) あらじとて 参つると申す 大
納言おき居て の堂万ハく なんぢ
ら よくもてこず(来ず)成ぬ 龍ハなる神
乃類井にこそあ里けれ それが
玉をとらんとて そこら乃人々の
がいせられんとしけり まして たつ
をとらへ堂らまじかば 又こともなく
我盤(は) がいせられなまじ よくとらへ
ず成にけり かくやひめてう 於ほ
盗人の屋つ(奴)が 人をころさんとする
なりけり 家のあたりだに 今盤
とを(ほ)らじ 男共も なありきそとて
家に少のこり堂りける物共ハ 堂
つ乃玉をとらぬ者共に 堂ひ(賜)つ
これを聞て はなれ給ひしもと
の上(うへ)ハかたハらいたし わらひ給ふ い
とをふか(葺)せ つくりし屋ハ とび から
す(烏)のす(巣)に ミな くひもていにけり 世
界乃人の云けるハ 大ともの大納言盤(は)
2.19 いな さもあらす 御まなこ 二つ すもも…
[龍の頚の玉や取りておはしたる]
いな さもあらず 御(み)まなこ二(ふたつ)に す
もゝ(李)乃屋う成 玉をぞ そへ(添へ)て いまし
堂るといひけれは あなたへかたと
いひけるよりも 世に あはぬ事を
は あな堂へかたとハ
いひはしめ
遣る
2.20 絵
[7 燕の子安貝]
2.21[7 燕の子安貝]
中納言いそ乃かミの まろたりの家に
つかはるゝ をのことものもとに つば
くらめ(燕)の す(巣)くひ堂らハ つ遣よと の
堂まふを承(うけたまは)りて なにの用にか
あらんと申 こたへて の給ふ 屋う つ
ばくら免乃 もたる こやす貝をとらん
れう(料)なりと の堂まふ をのこども
こたへて申 つはくらめを あまた こ
ろして見るだにも はら(腹)に なきもの
なり 堂ゞし 子うむ時なん いかでか
いたすらんと申 人だに 見れば うせ(失)
ぬと申 又人の申やう 於保い(大炊)つかさ(寮)の
いひかし(飯炊)具 屋のむねに つゝの あな
ごとに つはくら免ハ すをくひ侍る そ
れに まめならん をのこどもを ひ
く まかりて あぐらを ゆひ あ遣て
うかがはせんに そこら乃 つはくらめ
子う万ざらむやハ 扨こそ とらしめ
堂まはめと申 中納言 よろこび
給ひて 於かしき事にも有かな もつ
2.22
(もっ)とも え志らざ里けり 遣う(興)あり事
申堂り との堂まひて まめなる
於のことも廿人ばかり つかハして
あなゝひ(麻柱)に 阿遣(上げ)すへ(据)られたり 殿
よりつかひに ひまなく堂万ハせて
こやすのかひとり堂るかと むかは
せ給ふ つはくらめも ひとのあまた
乃保(上)りゐたるに 於ち(怖ぢ)て すにも 乃
保りこ(来)ず かゝ類よしの返しを申
けれハ 聞給ひて いかがすべきと思召しわづ
らふに
2.23 *麻柱を作る
2.24 …つかさの官人 くらつ丸と申 於きな…
彼(かの)つかさ乃 官人くらつ丸と申於きな
申やう こやす貝とらんと 於ぼし
めさば たばかり申さんとて 御前
に参り堂れば 中納言 ひたひを あ
はせて むかひ給へり くらつまろが
申やう こ乃つばくらめ こやす貝ハ
あし具堂はかりて とらせ給ふな
里 さてハ 絵とら勢給ハし あなな
ひに 於とろおどろし具 廿人上りて
待れはあれてよりまうて こず(来)
なりせざ勢堂まふ部きやうハ 此
あなゝひを こぼちて 人ミな志り
ぞきて まめならん人 一人をあらこ(荒籠)
にのせすへて つなをかまへて 鳥の
子うまん間に つなをつりあ遣さ
せてふと こやすかひを とらせ給ひ
なむ よかぬべきと申 中納言の多まふ
屋う いとよき事なりとて あなゝひ
をこぼし 人ミなかへりまうできぬ
中納言 くらつ丸に のたまはく つは
2.25 (つば)くらめ いかなる時にか 子をうむと…
(つば)くらめ いかなる時にか 子をうむと
志りて 人をは あく邊きと のたま
婦 くらつまる申やう つばくらめ 子う
まんとする時ハ 尾をさゝけて 七度
めぐりてなん う見於とすめり 扨七
度めぐらん於り ひきあ遣て そ乃
於り こやすかひ盤 とらせ堂まへと
申 中納言 よろこび給ひて 万の人
にも志らせ堂まハて みそかに つか
さにいまして をのこ共乃中に まし
里て よるをひるになして とらし
め堂まふ くらつ丸 かく申を いといた
具よろこびて のたまふ こゝに つか
はるゝ 人にも なき祢かひを かなふる
事のうれしさと の堂まひて 御
衣(ごぞ)ぬぎて かづけ給ふ さらに よさり
此つかさに まうでこ(来)と 乃給ふて つ
かはしつ 日暮ぬれは 彼つかさに 於
はして 見給ふに 満こと つはくらめ
す つくれり ぐらつまろ申やう 於う
遣て めぐる あらこ(荒籠)に人をのせて つ
くりあ遣させて つはくらめ乃 す(巣)に
2.26 けて めくるに あらこに 人をのせて つくりあけさせて
手をさし入さ勢て さぐるに物もなし
と申に 中納言 あしく さぐれば な
き成りと はら堂ちて たれはかり 於ほ
えんにとて 我のほりて さぐらんと
の堂まひて こ(籠)にのりて つられ上
里て うかゝひ堂まへるに つばくら
め 於(尾)をさげて いたく めぐるに あは
せて 手をさゝ遣て さぐり堂まふに
ひら(平)める物さハる時に 我物にぎり
堂り 今ハ於ろしてよ 於きな志え
たりと 乃堂まひて あつまりてと
具於ろさんとて つなをひき返し
てつなたる則(すなわち)に やしまの かなへ(鼎)
乃上に の遣ざ万に 於ち給へり 人々
あさましかりて よりて かゝへ奉れり
御目ハ 志らめにて ふし(臥)給へり 人々 水
をすくひ入奉る からうじて いき出
堂まへるに 又かなへ(鼎)乃上より 手とり
2.27 あしとりして 御す於ろし奉る … かひなしといひける
足とりして さ遣於ろし奉る か
らうじて 御こゝち盤 いかゝ 於ほさるゝ
と ゝへ(とへ)は いきの下にて 物盤すこし 於
ほゆれと こし(腰)なん うごかれぬ され
ど こやす貝を ふとにぎり(握り)もたれ
ば うれしく 於ほゆるな里 まづ
志そく(紙燭)して こ(来) こし乃かい か保(顔)ミんと
御くし もたげて 御手を ひろ遣 た
まへるに つはくらめの まりを(お)ける 婦
類(古)具そ(糞)を にぎり給へるなりけ里
それを見給ひて
あなかひなの
わざやと のたまひ
けるよりぞ 於もふに
堂かふ事
をは
かひなしと
いひ
ける
2.28 絵 *中納言、落ちる
(中納言・石上麻呂いそのかみ まろたり) 燕の持っている子安貝を得ようとして、高い所から墜落、不帰の客となる
実在の人物 石上麻呂(340-717)
2.29 かひにもあらすと 見給ひけるに…
かひ(貝)にも あらずと 見給ひけるに 御心
ちも堂かひて からひつ(唐櫃)の ふたに 入ら
れ給ふ邊くもあらず 御こしハ 於れ(折れ)
にけり 中納言ハ いゝいけ(わらワ)遣(げ)たる ワざし
て 屋むことを 人にきかせしと 志
堂まひけれど それを 屋まひ(やまい)にて
いとよはく成給ひに遣り かひを
えとらずなりに遣るよりも 人の
きゝわらハん事を日にそへて お
もひ堂まひければ 堂ゝに 屋ミ志ぬ
るよりも 人きゝ はつかし具 於ほし
給ふなり遣里 これを かく屋ひめ
聞て とぶらいひに 屋る哥
年をへて 浪立よしぬ すみ乃江の
まつかひなしときくハ 満ことか
とあるをよみて きかす いとよは
き 心にかしらもた下て 人にかミ
をもたせて くるしき 心ちに からう
じて かき給ふ
かひハ かくありける物を わびすてゝ
2.30 志ぬる いのち… をは かひあ里とハいひける
志ぬるいのちを すくひやハせぬ
と書はつる 堂え(絶え)入給ひぬ これを聞
て かく屋ひ免少あはれと於ほし遣
里 それよりなん 少うれしき事
をは かひあ里とハ
いひける
———————————————————————————————-
竹とり 3 下 *アップロード中
3.0a
3.0b
[8 帝の求婚]
3.01 [8 帝の求婚]
かくやひめ かたち乃 世に似ず めで
堂き事を 見かど聞しめして
内侍なかとミ(中臣)のふさこ(房子)に の給 おほ
具乃人の身を いたづらに なして
あはさる かく屋ひめ盤 いかばかり
乃女ぞと まかりて 見て万いれ
と の給ふ ふさこ 承(うけたまはり)て まかれり た
遣とり乃家に 畏(かしこまり)て 志やうじ(請じ)いれ
て あへり 女に内侍 の給ひ 仰事に
かくやひめ乃 うち い□に於はすなり
よく見てまいるべきよし乃給 はせ
つるになん 参りつるといへは さら
は かく申 侍らんといひて 入ぬ かく
やひめに はや かの 御使に たいめん
し堂まへといへは かくやひめ よき
かたちにも あらず いかでか 見ゆへ
3.02 …きと いへは うたて のたまふかな 見かと…
(べ)きといへは うたても のたまふかな
見かど乃 於使をは いかでか をろ
かにせんと いへば かくやひ免の こたふ
る屋う ミかどのめして のた万ハん
事かしこし共 於もはずと いひて
さらに ミゆべ具もあらず むめる(産める)子
乃 屋うにあれと いと心はづかし遣
にも えせめ(責め)と 於ろそかなるやう
にいひければ 心のまゝにも ならず
ないしのもとにかへり出て 口於しく
こ乃於さなきものハ こはく侍る者
にて堂いめんすまじきと申 ない
しかならず 見奉りて 万いれと
於ほせことあ里つる物を 見堂て
まつらでは いかでか 帰り参らん 國王
乃仰事をまさに 世に住給ハん人の承(うけ)
給ハでありなんや いはれぬことなし給ひ
ぞ とことは(言葉)ハちしく云ければ 是を聞く
まじく かくやひめ聞邊くもあらず 國王の
仰事をそむかハ はや ころし(殺し)給て よかしと云
3.03 絵 *帝
3.04 此内侍 かへり参て このよしを
此内侍かへり参て このよしを そう
す 見かど きこしめして 於ほくの
人ころしてける 心ぞかしと のたまひ
て屋ミにけれど 猶於ほし於ハし
まじく こ乃女の堂ハかりにや ま
けんと於ほして 仰給ふ 汝がもちて
侍る かく屋ひめ奉れ かほかたち よ
しときこしめして 御つかひ たび(賜)
志かど かひなく ミえず成にけり 加
具堂ひだい(攸々)しくやハなら(慣ら)はずべきと
仰らるゝ 御きな かしこまつて 御
返事申やう こ乃女の わらハゝ たへて
宮仕つかうまつるべ具もあらず侍
をおて わづらひ侍 さり共 まかりて
於ほせ堂万ハんとそうす これを
聞召て 於ほせ給ふ などか 於きなの
於ほし堂てたらん 物を 心に まか
勢さらん こ乃女 もし 奉り堂るもの
ならは 於きなに かうぶりを など
か 堂は(賜は)せ ざらん 於きな よろこびて
3.05 夜にかへりて かくやひめに かたらふ…
夜にかへりて かくやひめに かたらふ
屋う かくなん みかどの仰たてまつる な
をやハ つかうまつり 堂万はぬと いへ
ば かくやひめ こたへて云 もハら さや
う乃ミや(宮)づかへ つかう(仕) まつらじと
おもふを 志井(しひ)て つかう(仕) まつらせ た
万ハば きえ(消)うせなんず みつかさ(御官)
かうぶり(爵)仕(つかうまつり)て 志ぬはかり也 於きな
いら婦る様 な志給(したま)ひそ かうぶりも
わが子を 見堂(みた)てまつらでハ 何に
かせん さは有共(ありとも)などか ミやつかへを
し給ハざらん 死(しに)給(たま)ふべきやう屋ある
邊きといふ なを そらごとか登 つか
まつらせて 志(死)なずやあると見たま
邊(へ) あまたの人の心さし をろかなら
ざりしを むなし具 なしてしこそ
あれ きのけふ 見かどの のたまはん
事につかん 人(ひと)き(聞)ゝ 屋(や)さしといへば 於
きな こたへて云 天下の事ハ と有
とも かゝりとも 御命のあやうさこそ
3.06 於ほきなる さはりなれハ
於ほきなる さハりなれハ 猶 つかう
まつるまじき事を 参りて 申さん
とて いそぎ参りて申やう 仰の事
乃 かしこさに 彼わらハを まハらせ
むとて つかうまつれハにや つかへに
出したてハ し(死)ぬべしと申す ミやに
こ丸が 手にうま(産)せたる子にても
あらず むかし 山にて 見付たる かゝ
れば こゝろばせも 世の人に似ず
侍りと そう(奏)せさす 見かど 於ほせ
給ハく ミやつこまろが家ハ 山もと
ちかく也 御かり(狩)ミゆき(行幸)志た万(給)ハん様
にて ミてんやと のたまハす ミやつ
こまろが申やう いと能(よき)事也 何か
心もなくて侍らんに ふと ミゆきし
て 御らんせられなんと そうすれは
見かど にはかに 日を定て 御かりに
出(いで)給ふ かくやひめの家に入給ふて 見給(みたまい)
に ひかりミちて 遣(け)よらにて ゐた
る人盤 これならんと 於ほして[近く寄らせ給に 逃げ]
3.07 て入(いる)袖をとらへ堂まへは 於もてを…
て入(いる)袖をとらへ堂(た)まへば 於もて(面)を ふた
ぎて 候(さぶら)へど はじめよく 御らんじつ
れば 堂くひ(類)なく めで堂(た)く 於ほえ
させ給ひて ゆるさじとすとて ゐて
於ハしまさんとするに かく屋ひめ
こたへて そう(奏)す をのが身ハ 此國に
生(うまれ)て侍らハこそ つかひ給はめ いと
ゐて於ハしましがた(難)くや 侍らんと
そうす 見かど などか さあらむ な
をゐて 於はしまさんとて 於こし
をよせ給ふに このかぐやひめ きと
か遣(影)に成ぬ はかなく くち於しと
於ほして けに 堂ゝ人にハ あらざり
遣りと 於ほして さらは 御ともに
は ゐていか(行)じ もとの御かたちと成
堂まひ年(ね) それを見てだに 帰り
なんと仰らるれば かくやひめ もと
乃かたちに成ぬ ミかど 猶めで多く
於ほしめさるゝ事せきとめかたし
かく見せつる 宮つこまろを よろ
こび給ふ さて仕まつる百くハん人々
3.08 こひ給ふ さて 仕まつり 百くハん 人々…
(よろ)こび給ふ さて仕(つかう)まつる 百くハん(の)人々
あるじ(饗)いかめしう つかうまかる 見
かど かく屋ひめを とどめて 帰たま
はん事をあかす 口於しく おほ
くけれど 玉しゐを とゞめたる心
ちしてなん かへらせ給ひける 御こし
に奉て後に かくや姫に
かへるさの ミゆき(行幸)物う(憂)く おも保えて
そむきて と万る かくやひめゆへ
御返事
むぐら(葎)ハふ下にも
年ハ 邊(へ)ぬる
身の
なにかは
堂満乃
うてなをも
ミん
3.09a 絵
3.09b 絵
[9 かくや姫の昇天]
3.10 これを みかと御らんして…
これを みかど 御らんじて いかゝ帰(かへ)
里(り)給ハん そら(空)もなく 於ほさる御心
盤(は) 更に たちかへる邊くも 於ほさ
れざりけれど さりとて夜をあか(明)し
給ふべきに あらねば か邊(帰)らせ給ひ
ぬ つねに つか(仕)うまつる人を 見給ふに
加くやひめ乃 かたハらに よるべくだに
あらざりけり こと人よりハ 遣(け)うらなり
と 於ほし遣る人の かれに於ほし 合す
れば 人にも あらず かくやひめのミ 御心
に かゝりて 堂ゝ ひとり 過(すご)し給ふ よし
なく 御かたがたにも ワたり給ハず かく
やひめ乃 御もとにぞ 御文をかきて か
かよ(通)はさせ給ふ 御かへり さすかに にく(憎)
からず 聞えかはし給ひて 於もしろ
具 木草に付ても 御哥をよミ
て つかハす かやうに(て) 御心を たかひ
に なくさ(慰)め給ふほどに 三年ハかり
有て 春のはじめより かくやひめ
月の於もしろう(く)出(いで)たるを見て つね
3.11 よりも 物於もひたる様也 有人の月かほ…
よりも 物於もひたる様也 有人の月
かほ見る盤 いむ(忌む)事と せいし(制し)け
れども(共) ともすれは 人(ひと)ま(人間)にも月を
見てハ いミじく なき給ふ 七月十
五日の月に 出(いで)ゐて せちに物於もへ
る遣しき也 ちかく つか(使)ハるゝ人々
竹とり乃 於きなに つ遣て云 か
具やひめ れいも 月をあはれかり
堂まへとも こ乃頃となりてハ 堂ゝ
事にも侍らざめり いミじく 於ほ
し な遣(嘆)く事 あるべし よくよく
見奉らせ給へといふを きゝて かくや
ひめに云(いふ)屋(や)う なんてう 心ちすれ
ば かく ものを於も(思)ひたる様(さま)にて 月
を見給ふぞ うましき世に と云
かく屋ひめ 見れば せ遣ん(世間) 心ほそ
く哀(あはれ)に侍る なてう 物をか な遣(なげ)
き侍るべきと云 かく屋ひめ乃 有所
にいたりて 見れハ 猶 物於もへる けし
きなり これを見て 有佛(あるほとけ*) 何事
*秀本、古活字
3.12 おもひ
おもひ給ふぞ 於ほすらん事 何こと
ぞといへは 於もふ事もなし 物なん
心ほそく 於ほゆるといへば 於きな 月
な見たまふそ これを見たまへば
物於ほす けしきハあるぞといへハ
いかで 月をミてハあらんとて なを
月いづれば 出(いで)居(ゐ)つゝ なげき
於もへり
3.13
3.14
夕やミにハ 物於もはぬ 遣しき也 月の
ほとに成ぬれば なを 時々ハ うちな遣(嘆)
きなとす これをつかふものども なを
もの於ほす事あるべしと さゝや
遣(囁け)と 親をはじめて 何事とも 志ら
ず 八月十五日はかり乃 月に出(いで)居(ゐ)て
かくやひ免 いといたく なき給ふ 人目
も 今ハつゝミ給ハず なきたまふ 是
を見て 於や共も何事ぞとゝひ さ
はぐ かく屋ひめ なくなく云 先々も 申
さんと於もひしかども かならず 心ま
どハし給ハんものぞと おもひて 今
まで 過し侍りつる成り さのミやは
とて うち出侍りぬるぞ をのか身ハ
此國の人にもあらず つき乃都の人
也 それをなん むかし乃 ちぎり有
遣るによりなん 此世界にハ もうで
きたりける 今ハかへる邊きに成に
ければ 此月の十五日に 彼(かの)もとの國よ
里むかへに 人々まうでこん(来)ず[こむとす]さらず
まかりぬべければ 於ほしな遣(嘆)かん
か かなしき事を 此春より おもひな
3.15 まかりぬべければ 於ほしな遣(嘆)かん
げき侍るなりといひて いミじく
なくを 於きな こはなてう事を
乃給ふぞ 竹の中より ミつ遣(け)聞え
堂りしかど なた祢乃 *大きさをは
せしを ワか堂け(丈)たちならふまで や
志なひ堂てまつりたる ワが子を何人
かむかへ聞えん まさにゆるさんやと
云て 我こそ志なめとて なきのゝし
類事 いとたへ(堪え)かた(難)け也
月のミやこの人にて 父母あり **かた時の
間とて かの國より まうてこしかと
も かく此國にハ あまたの年をへぬ
類になん あ里ける 彼国乃父母乃
事も おほえず こゝには かく久敷
あそびきこえて なら(慣)ひ奉れり いミ
じからん心ちもせず かなしくのミ
ある されど をのが心ならずまかり
なんとするといひて もろともにいミ
*古活字本「おほきさを」
**吉本「片時のまとて」
3.16
(いミ)志うなく つかハるゝ人も 年頃 ならひ
て立わかれなん事を 心はへなど
あてやかに うつくしかりつることを ミ
ならひて こひしからん事の たへかたく
ゆ水 の万(飲)れず 同じ心になけかし
かりけ里 こ乃事を見かど きこし
めして 竹とりの家に 御使つかハ
させ給ふ 御つかいひに 竹とり出あひて
なく事かぎりなし 此事をな遣
具に ひ遣(鬚)も 志ろ(しろ)具 こしも かゝま
里 目も堂ゝれにけり 於きな盤
年ハ五十はかりな里けれども
物於もひにハ かたときになん老にな
里にけりとミゆ 御つかひ 於ほせ事
とて 於きなに云 いと心くるし具
物於もふ成ハ まことにかと仰たまふ
竹取 なくなく申 此十五日になん月
乃 ミやこより かく屋ひめ乃 むかへに
まうてく(來)なる 堂うとく とは(問)せた
まふ 此十五日にハ 人々賜(たま)はりて 月の
都の人まうでこむ とらへさせんと申
御使 か邊(帰)り万い(ゐ)りて 於きなのあり
3.17 都の人まうて…
[都の人まうでこむ とらへさせんと申
御使 か邊(帰)り万い(ゐ)りて 於きなのあり]
(あり)さ万 申て そう(奏)しつる事共 申を
聞召(きこしめ)て 乃給ふ 一目(ひとめ)見給ひし 御心
にたに わすれ堂万ハぬに 明暮 見
たれ堂る かく屋ひめを やりて いかゝ
おもふべき かの十五日 つかさ(府) つかさ(府)に
於ほせて ちよ具し(勅使) 少将高野の
おほくにと云人をさして 六惠の つ
かさ合て 二千人の人を 竹とりか家
につかはす 家にまかりて つゐちの
上に千人 屋の上に千人 家乃人々
おほかり遣るに合て あ遣る ひま
もなく まもらす 此まもる人々も 弓
矢を堂い(帯)して たもや乃内にハ 女と
も はん(番)に於りて守らす 女ぬりこ
め(塗籠)乃内より かく屋ひめを いた(抱)かへて お
里 於きなも ぬりこめ乃 戸さして
と くちに 於り 於きなの云 かハかり
守る所に 天の人にも ま遣んや とい
3.18 (い)ひて 屋のうへに…
ひて 屋のうへに 於る人々に いはく つ
ゆ(露)も 物 そら(空)に か遣らば ふと いころし
堂まへ 満もる人々乃云 かばかりして
まもる所に かはり 一たに あらハ まづ
いころして *外にさらさんと 於もひ
侍るといふ 於きな これを きゝて た
乃もしかりをり これを きゝて かく
屋ひ免ハ さし古め(籠め)て まもり堂ゝ
かふ邊き 志た具みを 志たり共 あ
の國の一を え堂ゝかはぬなり 弓
矢して い(射)られじ かく さしこ(籠)めて
有とも 彼國の人々ハ ミなあ(開)きなん
とす 相堂ゝかハんとす共 彼国の人
きなば たけき心つかう人も よもあ
らじ 於きなのいふ屋う 御むかへに
らん人をは 長きつめして まなこを
つかミ つぶさん さかゝミをとりて かな
ぐり 於とさん さが志りを かきいで
て こゝらの 於ほや遣(朝廷)の人に 見せ
て はちをミせんと はらだち(腹立ち)於る かく
屋ひめ いはく こはたかに なのたまひ
そ やの上に於る人共のきくに いと
*古活字本「外にさらさんと」
3.19
[屋ひめ いはく こはたかに なのたまひ
そ やの上に於る人共のきくに いと]
(いと)まさなし い万すがりつる 心さし
どもを おもひも志らで まかりなん
する事乃 口於(くちお)しう侍りけり なか
き ちぎりのなけりけれハ 程なく居
ぬべきなめりとおもひ かなし具侍
なり 親達乃 かへり見を いさゝか多
に つかうまつらで まからん道も や
すくもあるまじきに 日頃も出(いで)ゐ
て ことしはかり乃 いとまを申 つ
れど さらに ゆるされぬに よりて
なん かく おもひなげき侍る 御心を
乃ミ まとハして さりなん事の かな
しく 堂へかたく侍也 かの都の人ハ
いと 遣(け)うらに 於ひをせずなん思ふ
事もなく侍るなり さる所へまからん
ずるも いみしく(も)侍らず 老於とろへ給
邊るさ万を 見奉らざらむ事こひし
からめと いひて 於きな むねいたき事
3.20
な志給ふぞ うるハしき
すかたし堂る使(つかひ)
にも
さはら(じ)と
祢たみ
けり
3.21a 翁、嫗、かぐや姫を部屋に入れて、護っている
3.21b 絵 兵者は、月の都からの迎えを射るべく、姫を守っている
3.22 かゝるほとに よひ打過て… 宮つこまろ 家にまうて
かゝるほどに よひ(宵)打過て 祢(子)のこく は
かりに 家乃あたり ひる(昼)のあか(明)さに
も すき(過ぎ)て ひかり堂り もち月の あ
かきを 十あはせたる ばかりにて 有人
乃毛のあなさへ ミゆるほどなり 大
空より 人 雲にのりて 於りきて
土より 五尺はかり あか[りた]るほどに
たちつらね堂り 内外(うちと)成(なる)人の心ど
も 物に於そハるゝやうにて 相(会)たゝ
かはん心も なかりけ里 からうじて
おもひ於こして 弓矢をとり堂てん
とすれ共 手に力もなくなりて
なへ(萎)かゝり堂る 中に 心さかし幾
もの 祢んじて い(射)んとすれ共 ほかざ
まへ いきければ あれ(荒)も たゝかはで 心
地たゝ 志れに志れて まもりあへり
堂てる人共ハ さうぞく(装束)乃 きよらなる
事 物にも似ず と(飛)ぶ車 一(ひとつ)具したり
らかい(羅蓋)さし堂り 其中に 王と於ほ
しき人 宮つこまろ(麻呂) 家にまうで
3.23 といふに たけく 於もひつる ミやつまろも 物にえひたり こゝち…
こ(來)と いふに た遣(猛)く 於もひつる ミやつこ
まろも 物にえひ(酔)たる こゝちして う
つぶしに ふせ(臥)り いはく 汝(なんじ)於さなき人
いさゝか成 くどく(功徳)を 於きな つくり遣(け)
類(る)に よりて なんぢが 堂す遣(たすけ)にと
て かた時乃ほどゝて くたしゝを そこ
ら乃年頃 そこらの こがね(黄金)給ひて 身
を かへたるがことく なりにけり かくや
ひめ盤 つミを つくり給へりけれハ かく
やひめ いやしき をのれがもとに 志はし
於ハしつるなり つミのかぎりはてぬ
れは かくむかふる 於きなハ なきな遣
具あたはぬ事也 はや返し奉れ
といふ 於きな こたへて 申 かくやひめ
を屋しなひ堂てまつる事 廿余年
に成ぬ かた時と の給ふに あやし具
なり侍りぬ 又こと(異)所 かくやひめ
と申 人ぞ 於ハし万すらむと云 こゝ
に於はする かく屋ひめハ おもき病を
志たまへハ え出(いで)於ハしますまじと
3.24 と申せは 其返事ハなくて 屋の上に
申せば 其返事(かへりごと)ハなくて 屋の上に
とぶ車をよせて いざ かくやひめ きた
なき所に いかでか 久敷 於はせんと い
ふ 堂て(立て)こめ(籠め)たる所乃戸 則(すなはち) 堂ゝ阿き(開)
にあき(開)ぬ かうし(格子)共も 人ハなくし
て あきぬ 女いだき(抱き)てゐたる かくや
ひめ と(外)に出(いで)ぬ えとゝ(ど) む まじければ
堂ゝ さしあふ(仰)きて なき(泣き)於り 竹とり
心まとひて なき(泣き)ふせ(臥せ)る所に よ(寄)りて
かくやひめ いふ こゝにも 心にもあらで
かくまかるに 乃保(昇)らむをたに 見を
くり給へと いへとも 何しに かなしき
に 見をくり奉(たてまつ)らん 我を いかに せよ
とて すて(捨て)ゝハ 乃ほ(昇)り給ふぞ く(具)して
*ゐて於はせねど なき(泣き)て ふせ(伏せ)れば
御心まどひぬ 文を書置て まからん
こひ(恋)しからん折々 とり出(いで)て見給へと
て うちなき(泣き)て書(かく)ことはハ この國に
生れぬるとならば なけ(嘆)かせ奉(たてまつ)らぬ
ほどまで侍らて 過(すぎ)わかれぬる事 返
*古活字、武本、内本、高本「いて於はせね」
3.25 …ほ給なくとて
(返す)返す ほゐ(本意)なくこそ 於ほえ侍れ ぬ
ぎをく衣(きぬ)をかた見とみた万へ 月の
出たらん夜ハ 見をこせ給へ 見すてた
てまつりて まかる そらよりも 落
ぬべき 心ちすると 書をく 天人
乃中に もたせ堂りはこ有 あま
の羽衣い(入)れり 又あるハ不死の具
すり入(いれ)里 ひとり乃天人云 つほな
る御くすり奉れ きたなき所の物 き
こしめし堂れば 御心ちあしからん
物ぞとて もてよりたれば いさゝか な
め(嘗め)給ひて 少(すこし)かた見とて ぬぎ置 こ
ろもに つゝ(包)まんとすれば ある天人
つゝ(包)ませず 御ぞ(御衣)をとり出して き(着)せ
むとす その時に かく屋ひめ 志はし
まてと いひ きぬ(衣)き(着)せつる人ハ 心こと
に成なりといふ もの一(ひと)こと *いひをく
邊き事ありけりと云て 文かく天
人をぞし心もとなかり給ひ かくや
ひめ 物志らぬ事な のたまひそとて
3.26 いミじ具 志つかに… とてあまの羽衣…
いミじ具 志づかに 於ほや遣(朝廷)に 御文た
てまつり給ふ あはてぬ さ万なり か
具 あまた乃人を給(賜)て とゞめさせた
まへど ゆるさぬ むかへまうできて とり
いで まかりぬれば くち於しく かなし
き事 宮仕へ つかうまつらずなりぬ
るも かくわづらハしき 身にて 侍れ
は 心えず 於ほしめされつらめども
心つよく承(うけたま)ハらずなりにし事 な
めけなるものに 思召(おぼしめし)とゞめられぬる
なん 心にとまり侍りぬとて
今ハとて あまの羽衣きる於りぞ
君をころもと於もひいでたる
とて つぼ乃くすりそへて 頭中将を
よびよせて奉らす 中将に天人とり
てつたふ中将とりつれハ ふとあま
乃はころも うちきせれりつれば
於きなをいとをしかなしと於ほし
つる事も うせぬ 此きぬきつる人々
物於もひなくな里ければ 車にの
[10 富士の煙]
3.27 里て 百人はかり 天人 具して 上りぬ 其後 …
(の)里て 百人はかり 天人具して 上り
ぬ 其後 於きな(翁) 女 ち(血)のなみだ(涙)をな
がして まとへど かひなし あの書を
きし文を よ見て きかせけれど 何
せんにか 命も於しからん 堂(誰)かた
めにか 何事も ようもなしとて
くすり(薬)も くハず やがて 於き(起)も
あがらで やミ(病)ふ(臥)せり
3.28a
3.28a+3.28b 絵 昇天 男四人で担ぐ 女十人、演奏、上っていく
3.28b 兵者は、射ようとするが、全く出来ない
3.29 中將 人々 ひき具して…
中将 人々ひき具蘇手かへり万い里
て か具やひめを えたゝか(戦)ひとゝ(留)めず
成ぬるを 古万ごまと奏す くすり
乃つぼに 御文そへて 参らす ひろ
遣て 御覧して いとあはれからせ
堂まひて 物も きこしめさず 御あ
そびなども なかり遣里 大臣 上達(かんだち)
部(め)をめして いづれの山が天に
ちかきとゝはせ給ふに ある人 そう
す するが乃國にあるなる山なん
此都も ちかく天も地かく侍ると そ
う(奏)す これをきかせ給ひて
あふことも なみだにうかぶ我身にハ
志なぬ くすりも 何にかはせん
かの奉る不死乃くすりに 文つほ く(具)
して 御使に 給ハす ちよくし(勅使)には
月(調)のいはかさ(石笠)といふ人を召(めし)て する加
乃國に あなる山乃 いたゝきに もて
つく邊きよし仰給(おほせたま)ふ ミねにて すべ
きやう をしへさせ給ふ 御文 ふしの く
3.30 (く)すりの つほ ならへて 火をつけて…
(く)すりのつぼならべて 火をつ遣て
もやすべきよし 仰給ふ そのよし承(うけたまはり)
て 兵者(つはもの)も あまたぐして 山へ のほ
里けるよりなん 其山を ふし乃山
とは 名付ける そのけふり いまだ
雲の中へ たちのぼるとぞいふ
つたへ堂り
2025-02-08
(雁註)ざっと読み下してみたが、語句は古活字本を採用しているようだ。
・古活字本は、古写本を底本としている。
・すると、古写本のA B C
・この竹とり絵巻の古写本は、一体、どれになるのか今後の課題である。
2025-01-22絵巻(竹取を含む)/総目録_げだい_3431項目
2025-01-22絵巻(竹取を含む)/総目録_3431項目
2015奈良(絵巻、絵本)/総目録ほか *概観、術語 404項目 *書名以外も含む
*全体を概括するため、竪横の一覧表にまとめた。典拠は、奈良絵本・奈良絵巻の参考書、反町茂雄、石川透ほか、諸先生方の諸本を参考にした。更に、一覧表にして、個々、全体が分かるように整理したい。
・奈良絵巻、奈良絵本は、古い平安の大型絵巻物、中世の絵巻物に記録されていない。
・つまり1615元和偃武(げんなえんぶ)以降、堺あたりで制作されたものと考えられる。
・「ころう丁」の「丁」は、家康が整備した堺に特有のものである。鼓楼(ころう)、つまり、真宗の寺院に固有の施設である。
・奈良絵巻は、奈良、春日大社あたりで制作されていたという仮設は、妥当性を欠くようだ。
・また京の「城殿」(きどの)は製作者というより、販売者と考えるべきであろう。
・紙背(しはい)文書(奈良絵本の表紙裏の反故紙)「反故紙の書目」から推定すると1,000種類以上の作品があり、「京にて売る」と記述があり、販売は京であるが、制作は別の地域、堺あたりかと推定しておく。
1979反町茂雄/チェスタービーティー図書館蔵 日本の絵入本および絵本目録
1979反町茂雄/奈良絵本私考
1982奈良絵本国際研究会議/御伽草子の世界。
1992沢井耐三/室町時代複製翻刻目録/新日本古典文学大系55
1998市古貞次/中世文学年表 小説・軍記・幸若舞
2003石川透/奈良絵本・絵巻の生成。
◯奈良(絵巻、絵本)/総目録 五十音
2015奈良(絵巻、絵本)/総目録 494点
*絵巻、絵本を区別しない書誌学者もいるが、やはり絵巻、そして絵本として区別した方が理解しやすい。
ただ分類で検索する時、「奈良」と入力すれば、両方とも検索できる。判型記号で、それぞれ絵巻、奈良絵巻、奈良絵本で検索できる。絵本は一般的な分類で、絵入また挿絵入の版本の意。
———————————————————————————————–
◯2015奈良絵巻/総目録
・1520s以前。1520s以降、1660s寛文頃まで、制作された。
・1690s−1700s元禄末に消滅した。これは大名家が没落、改易などの理由で、需要が減ったからである。
2015奈良絵巻/総目録 134点
*奈良絵巻は、室町末期から江戸初期に、制作された。
・1520s大永頃より、絵巻は次第に奈良絵本(冊子)になる。
・絵巻物は、僧侶らによる副業もあったが、次第に需要に応ずるため、京の扇屋、絵草子屋が量産の仕込絵として制作していった。
・しかし、絵の画格も、ばらつきがある。すべて無款のため、画流は広く大和絵、土佐絵、狩野派ということになろうか。
(絵)以下、「たけとり」全3巻(日本・個人)を紹介する。
*1.08×1.6尺(33 cmx48.5 cm)、基準の料紙を使っている。倍尺の大きさの詞書、絵もある。
**たけとり 上:3+2x2=7点 中:7点 下:2+3x2=8点
*絵は17点 倍尺をx2とすると22点
(上:3+2x2=7 中:7 下:2+3x2=8)
日本・個人 *販売を目的とせず、個人、学術の場合、許可します
*(詞書)平安期、詞書き(筆ハ、ふでハ)は天皇、親王、三筆(四筆か)が書いた。
・室町-江戸初期、公家衆、武家また僧侶が担当した。ある程度、書流を習得した人物であろうか。その意味で、一人で一気に書き込んでいる。墨継ぎなどに面白みがある。
・しかし書流にも、上下、かなりバラツキがある。
・本絵巻は、「極メ」があり、「明之言様御筆」と書かれている。
・これは例外であって、一般に画者、筆者の名前は書かれていない。
・書かれているものは、古筆家が便宜的に有名人に宛てて、鑑定と称して、その実、営利を目的としていた。学術的には、殆ど無意味なものが多い。
・しかし、この「明之言様御筆」は、卿(けい)・大納言、阿野実藤(1634-1693)か。今後、詳細に調査する必要がある。
・つまり奈良絵は、奈良(実ハ堺)また京都の専業筆耕、専業絵師、また僧侶、公家、連歌師らの完全な分業である。
・1600s-1620s慶長・元和頃まで、註文生産。
・1620s−1630s寛永以後、商品化され、大量化する。
・その後、奈良絵から暗示を受けて、大津絵が生まれた。
———————————————————————————————–
◯大津絵
・1543年、ポルトガル、スペインによるキリスト教が九州を中心として、西日本全域に布教された。キリシタン大名なども多く輩出した。
・しかし、その後、キリスト教を布教しながら、奴隷貿易を行っていることが明らかとなり、弾圧された。
・大津で盛んに仕込み描かれた大津絵は、一気に日本全国へ広まった。
・これは大津絵を掛けることにより、自分は仏教徒であることを示し、キリシタン容疑の拷問、迫害を避けるためであった。
日本・個人 *販売を目的とせず、かつ個人、学術的研究の場合、複写を許可します。
*かぐや姫だけでなく、周りに多くの子供たちがいる。
*松の描き方、いわゆる樹法は、シナ、狩野派と違い、土佐派のように思える。
今後、詳細に調査する必要があるが…
*本絵巻は「極メ」があり、「土佐光隆筆」とある。
・しかし、本来、「筆」は書跡の意である。
・筆者、これは「ふでハ」で、「ひっしゃ」ではない。
・平安期、「絵」は(絵者か)、官位・五位程度のものが担当、
・「筆」は親王以上が担当する。
・「筆者(ふでハ)」の方が遥かに位が高いのである。
・公家、武家、僧侶が、手分けして物語の筋を書き、専業絵師が絵を描いた。
・絵も上下のバラツキがあるが、奈良、大坂(堺)、京などで、生業とした専門職であろう。素人ではない。
*かぐや姫は、必ず「柔らかい丸い柳行李」に入っている。丸いことが基本である。
・後に事実を知らぬ絵師らが、黒漆など四角い箱に入れて平気な顔をしている。これは。全く認識不足である。
*月宮殿からの迎えで昇天する情景。
・他の絵巻に平安期の網代車(あじろぐるま)のような大きな車輪が描かれているが、宇宙からの迎えとしては合点がいかない。
・やはり神輿、鳳輦(ほうれん)で四人以上で担ぐのが古来の常法であろう。
*たけとり絵巻、これまでの登録から、1660s寛文ころ、制作されたことが分かる。
・これまでの作品の昇天の画像を点検してみると、かなり雑に描かれていることが判明した。
・筆者(ふでハ)に関しても、通常は名もない筆写、筆耕であろうことは想像できる。その点、本絵巻の筆者、画者は、極めて優秀な人物であることが理解できる。
2015カグヤ姫昇天 ←ここをクリックすると倍尺になり、右に武者たちがいる。
日本・個人 *恐らく、最も豪華絢爛の五彩の雲、昇天図) *販売を目的とせず、かつ個人、学術研究の場合、許可します。
*竹取り、つまり竹は南方の熱帯原産であって、南方から伝わった物語である。
・子供の頃、絵本に孟宗竹の節(ふし)に描かれたカグヤ姫を見たことがあるが、これも事実誤認である。
*南方の熱帯では竹矢来(たけやらい)で御産をする。
・竹(矢来)で生まれたのが、何時の間にか竹から生まれたと誤認されたのである。
・太陰太陽暦では、月明りが頼りであった。月の明り以外、全く明りはない。
・満月の度に見る、輝かしい月に未知の世界があると渇望したのである。
・カグヤ姫は、異界からの女神である。従って、地上の王権も、あっさりと拒否できたのである。
◯2015奈良絵本/総目録
2015初期絵本/総目録 *奈良絵本と重複するものもある
*奈良絵本は、室町末期から江戸初期に、制作された。大永(1520s)頃より、絵巻は次第に奈良絵本(冊子)になる。通常、冊子本は二、三冊である。
・大型は1×0.75尺、
・中型は0.75×0.55尺、
・横本は0.6×0.7尺、これが一般的な冊子
当時の紙の判型は、尺寸で把握すると分かり易い。
小絵(こゑ)と称されている紙の判型は、0.55-0.6尺である。
・鳥の子(楮、こうぞ)を使っているが、横本になると泥入り間似合紙(まにあいがみ)を使う。
・平安朝の貴族向けの豪華な絵巻物と全く別に、庶民が楽しめるような平易な文章で、寺社縁起、お伽草子(昔咄)、出世譚、異界異類、謡曲(申楽)、などを題材とした。
・絵師は、寺社の絵所預かりの絵仏師、また下請け僧侶などだけに限定できず、量産化と同時に町衆の草紙屋、扇屋など専業職が主流となったことは想像に難くない。
・室町期は世阿弥(1363?-1443?)の申楽(さるがく、明治期に能楽))からも暗示を受けている。申楽は神男女狂鬼の五番、いずれも冥界の畏敬の対象としての死霊である。
・需要層は武士であった。都で造られた品物を購入していったものと考えられる。
・奈良絵本(奈良絵巻を含めて)は堺、京、奈良で描かれた。
・当初、註文生産であったが、次第に量産化した。一番歴史の古い奈良は戦乱などで疲弊した。京周辺も、戦国武家らによる寇掠、戦火で焼失している。
・堺が安土桃山期では、活気があった。
*1979奈良絵本私考、弘文荘
実際に奈良絵本(奈良絵巻)を売買し、記録した書誌学者の反町茂雄氏のは、288の目録が書誌学を踏まえて記録されている。また、先学の意見を取り入れ、独自の歴史的背景などで奈良絵本(絵巻も)を製作者、制作年代、需要者らの詳細を記録している。現在でも、奈良絵本について、最も信頼できる見解である。
———————————————————————————————–
◯2015丹祿本*/総目録 *これは版本、部分的に丹緑黄の筆彩色を施している
・丹緑本(たんろくぼん)と称する筆彩色の版本は、古く元和期(1610s-1620s)の古活字本、寛永期(1630s)が全盛で、寛文期(1660s)、明暦、万治期(1650s)で終る。
・奈良絵本を版本化して、丹、緑、黄の三色ほどで、筆彩色を施して需要に応えた。
———————————————————————————————–
◯絵画、歌舞音曲、国文
2015奈良絵本・絵巻・丹緑本 *絵画+歌舞音曲+国文 これらを一括して総合的に把握
肉筆[の奈良絵本、奈良絵巻]と版本[歌舞音曲、丹緑本]を区別する必要があるが、全体の動きを把握するため一括した。
1983-1988横山+松本/室町時代物語大成 御伽草子 476点 奈良絵本+奈良絵巻を含むが、大半は版本
2015奈良絵本・絵巻 *五十音順
2015奈良絵本・絵巻 *版本も含んでいる。純粋な絵巻の総数は、かなり少ない。
これまで国内では、奈良絵本・絵巻の評価が低く、殆どの作品は海外へ流出してしまった。
海外の作品なども含めて、今後、更に補っていきたい。
*この項、吉田小五郎、赤井達郎両先生の多くの所見を取り入れた。
何かお気づきの点があれば、御教示ねがいたい。
酒井 雁高(がんこう) 学芸員 curator
浮世絵・酒井好古堂 https://www.ukiyo-e.co.jp/108656/2025/01/
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